昔のBMSはゲームやアニメなどのMIDI音源を演奏するコピーBMS、作者自身が作曲したオリジナルBMS、そして複数のアニメの音声を組み合わせて今で言うMADのような作品を作り上げるBMSAという同じBMS作品でも各方向性が違う作品が混在していましたが、今では需要の変化によりほぼオリジナルBMS一強という状況になっています。
ここ14年の間にBMS楽曲はどのように変わっていったかを徒然と書いてみます。
なんで14年近くも経っており明確な証拠も無く全て記憶が頼りで、その記憶もおぼろげで正確な記事じゃないかもしれませんがその辺りはご了承。
今回はコピーBMSの話から。
コピーBMSの定義は原曲から耳コピして打ち込んだmidiデータをMIDIシンセの音として出力し、それらを録音かつ音切りを行った上で制作されたBMSの事を指します。
コピーBMSは当時で言うとFFシリーズやDQシリーズと言ったゲームミュージック、ToHeartやKanonといった当時人気を博していたPCゲームの楽曲、そしてアニメソングやJ-POPの楽曲が実際に演奏できる形で配布されていました。
また、コピーBMSには亜種として自身もしくはMIDI作者が独自で編曲を加えたアレンジBMSも存在します。これらのBMSをまとめて「コピアレBMS」という名称で呼ぶことにします。
コピアレBMSの一例1
そのコピアレBMSのほとんどがMIDIサイトで配布されているmidデータを作者に許可を得た上で手持ちの音源で録音しBMS化というBMS作者自身がmidを作っていないいわば「借りMIDI形式」で作られる事が多かったのですが、2000年頃を境にある変化が起きました。
akiraaniの日記: JASRACがMIDI文化をつぶした論について歴史からひも解いてみる
http://slashdot.jp/journal/568446/URL長すぎてレイアウト崩壊したので省略
それはJASRACのネット配信の取り込みによる利用料金の徴収、後の「JASRACによるMIDI文化狩り」です。
JASRACが定める信託曲MIDI配布の制定内容はダウンロードできる楽曲が最大10曲までで価格が年1万円。今思うと金額としてはそこまで高くはないのですが、アニメやJ-POPを主軸に扱っていたmidiサイトは10曲以上取り扱っているサイトが多く、明確な金額で支払えないと判断したサイト運営者が次々とJASRAC管理楽曲のmidiを公開停止またはサイト自体を閉鎖していきました。支払いを無視しmidiサイトを運営していたサイトはJASRACから警告のメールが送られる事案もあり、JASRACが本格的に動いていたことから他のmidiサイトもダウンロードの自粛や各ポータルサイトがオリジナル以外は扱わなくなる等、結果としてMIDI文化が萎縮する流れとなりました。
BMSとは直接的な関連性は無いものの、「借りMIDI文化」にとってこの萎縮は楽曲の選択が狭まる形となり当時は大打撃でした。
とはいえコピアレBMS自体は元々JASRACに信託していないゲームミュージックのBMS作品が多く、実際にJASRAC問い合わせをした人が回答を見事にスルーされるなどの流れによりコピーBMS自体にはそこまで影響が無かったのですが、MIDI文化の衰退に加えてブロードバンド化に伴う回線やホームページ容量の増加が後押しする形でコピアレBMSも衰退しはじめました。
そもそもMIDIは容量が軽い反面、「専用のMIDIハードウェアが無いと意図した形で再現できない」という再生環境に強く依存するファイルであっったため、ユーザーの環境によっては正常に再生されないケースがほとんどでした。そのハードウェアも良質なものは4~5万円と高価で、一般ユーザーが持っている方が珍しい時代でした。
そういった制約が無いオーディオ形式はmp3でもmidiファイルの数十倍以上の容量を要し、当時のホームページ容量の平均が10MB前後であったこと、また当時の回線もISDNが主流で測度にして平均7KB/sしか出ないような環境がほとんどだったため、たとえユーザーが自信の再生環境を持っていなかったとしてもmidiファイルを選ばざるを得ない状況でした。
しかしこれらはホームページの容量やインターネットのブロードバンド化に伴ってmidファイルではなくmp3形式で配布するサイトが増え始めました。
mp3はmidiと違いシーケンサデータではなくオーディオデータですので当然譜面データは抜き出せませんし、パート別に分けることも、それらの音を切ることもできません。パラアウトデータ2 を作者にお願いするのも無茶な話です。MIDIを扱うサイトの減少は「借りMIDI形式」によるコピアレBMSも追いかける形で減っていきました。
また、主軸となっていたコピアレBMS作者が社会人になり作る余裕が無くなってしまったのも含めて結果として2003~2005年頃を境に作者が次々と減る形となりました。この辺りはかつて運営されていたコピー・アレンジBMS専門レビューサイト「Re-Rise」とその後に運営していたコピアレBMS登録サイト「Re-3」の閉鎖も背景にあったのかもしれません。あとこの時期にはタイミング的に別の理由3 もあった気がしますが割愛しておきます。
2014年現在はコピーBMSを作る人はほぼいなくなり、代わりにアレンジBMSが主体になっていきました。かつてのRPGやPCゲームの曲を原曲に使用されたBMSが作られることはほぼ無くなり、代わりに東方ProjectのアレンジBMSが大多数を占めている状況です。
ただこれでも昔と比べると専門とする作者が大分減っており、前途で触れたゲームミュージック、アニメ、J-POP等のコピアレBMSは今だと作ってる方が珍しいんじゃないでしょうか。
ちなみに、J-POPやアニメソングなどの音源を耳コピなどを一際せずそのままリッピングなどで抜き取り、WAVとしてバックミュージックに配置した後、押しても鳴らない無音のキー音を配置したBMSはコピーBMSではなくキー音無しBMS、通称「物故抜きBMS」 として扱われています。キー音無しBMSはCDから抜き取った音源をそのままアップロードするため違法性が高く、なにより本家とBMSにある「キーを叩くと音が鳴る」という根本的なゲームシステムを冒涜するような粗悪な作品だったため昔から忌み嫌われていました4 。
その後どうなったかというと前途のJASRACの件により配布サイトが一斉に消滅。そのタイミングでDDRのクローンゲームであるstepmaniaがブーム5 になって、そちらの方へ需要が移り6 見かけることすらあまりありませんでしたが、2007年にはニコニコ動画で「組曲『ニコニコ動画』」のキー音無しBMSをきっかけに再び需要が上がったようです。
ニコニコ動画内でのキー音BMSは当時だとニコニコ動画内で流行っていた音源(「魔理沙は大変なものを盗んで行きました」をはじめとした東方Projectアレンジ、VOCALOID、アニメソングなど)を中心に投稿されていました。当時の投稿率の多さに本来のキー音有りのBMSの動画が埋もれる事態が発生したため、昔のキー音無しBMSを知るプレイヤーとってあまり良い印象を受けることはなかったようです。現在でも投稿作品をちらほらみかけますが、当時と比べると傾向が変わっており「他の音楽ゲームの楽曲を本家(IIDX)に移植したらどうなるか」といういわゆるもしも系の作品が主流となっています。
このようにキー音無しBMSは「BMS作品を配布するという名目で違法音源をバラまく」と「ゲームシステムを冒涜している」という背景があった関係でBMS作品を発表するイベントでは現在もなお規約として基本的に禁止しており、またLunatic Rave 2ではこういった違法な音源を利用したキー音無しBMSの演奏を禁止しています7 。
なぜ当時のプレイヤーや作者が過度なまでにキー音無しBMSを忌み嫌うのかについてはその昔BM98が様々な事情によりいわゆるアンダーグラウンドのコンテンツとして扱われていた時期が存在していた関係もあったわけですが、コピアレBMSの話題から完全に外れてるので、この辺りは気が向いたら書きます。
そんなキー音無しBMSに近い手法がまさか本家8 で採用されるとは夢にも思っていませんでしたが。
コピアレBMS記事だけで無駄に長くなってしまったので気が向いたらまた今度。
- 適当にYoutubeで漁ろうと思ったら自分が知ってるコピアレBMSが全く無くてびっくりした [↩]
- 各パート単体のみが再生されたオーディオデータ群。パートの数だけオーディオデータが出力されるため当然ながらミックスで出力するよりも容量が数十倍に倍増する。 [↩]
- 2003年頃にラグナロクオンラインのベータ版が運営開始。当時は圧倒的な人気を誇り「ネトゲ廃人」という言葉を産みだしたほど。当時のコピアレBMS作者はRPG好きが多く、ROに行ったまま戻ってこなかった作者もいたとかなんとか(虚構です)。 [↩]
- 実際、初期のBMS登録サイトにはアニメソングやJ-POPなどといった作品は大抵キー音無しBMSだった。中にはBMSを配布するという名目でJ-POPのMP3を配布していたサイトがあったとかなんとか [↩]
- DDR foonmixのリリースを皮切りに国内でstepmaniaがブームに。当時は様々なstepmania用のパッケージが配布された。 [↩]
- stepmaniaは譜面エディタが内蔵されており、BMSエディタより作りやすかったため需要が移り変わった。また、元となったDDRはダンスゲームであり踏んでも音が鳴らない関係でキー音を用意する必要が無い。 [↩]
- 実際にはシステム面で弾くような仕様は搭載しておらず、付属のテキストこのような文章が規約として掲載している。また、使用するWAVが1分を超えた場合LR2のインターネットランキングにスコアを登録することができない。 [↩]
- Pop’n music sunny park の版権曲。楽曲に原曲をそのまま使用した代償としてボタンを叩いても音が鳴らなくなった。元々ポップンも「ボタンを叩いて音を鳴らす」ゲームであったため、その方針を覆すような楽曲の収録は色々と話題になった。現在もなおこれらの楽曲が収録された真意は判明していない。 [↩]